ふたたびまどろみのなかで

原口昇平のブログ

男性はもはや女性蔑視を募らせている場合ではない――フェミニズムとコミュニズムをカルトが攻撃する理由

私の同級生や交友関係の中にいる宗教2世たちの大部分に不思議なほど共通している点として、まず母親が入信しているという事実がある。入信先はエホバの証人幸福の科学実践倫理宏正会創価学会、旧統一教会などさまざまだが、入信時期はおよそ出産後。これは日本社会の大きな問題を示唆している。

 

妊娠出産後に極めて不安定な状態に陥った女性に対するサポートまたは社会的包摂が不足しているのだ。
産後、車にはねられたのと同様と形容されることもあるほど体はガタガタになり、ホルモンバランスが劇的に変化し、脱毛、肌荒れ、虫歯、内臓や骨の移動による体中の痛み、産後うつのリスクに見舞われる。乳児が粉ミルクを飲んでくれるなら夫をはじめとする他の人も授乳サポートに入れるが、本人の嗜好・特性や何らかのアレルギーなどが原因で母乳しか受け付けない場合は、もはや母親がひとりで対応するしかなくなることもある。新生児の授乳はニ、三時間おきだ。意識は常に朦朧とする。その新生児は健康とは限らない。私の子のようにたびたび原因不明の血便が出てそのたびに腸重積なのではと震えたりすることもある。母親もみな母乳が十分に出るとは限らない。知人のように全く出ないケースもある。眼前のあまりにもか弱い命のすべてが自分の手にかかっているが、その自分は万全ではまったくない。横抱きにして授乳している間に意識を失うと寝返りでのしかかって圧死または窒息死させるのではないか、という恐怖もある。

 

彼女がパートナーをはじめとする周囲の人びとから十分なサポートを得られなければ、彼女はどうなるか? パートナーが仕事に忙殺されていて彼女を助ける余裕がまったくないとか、パートナーがそもそもいない(または山上徹也さんの父親のように彼の妹の産前に自死した)とか、彼女がうまくやれないのは母性がなんたらと言われるとか、母は強しとかいう格言を引いて強くなれと言われたりとか、ちょっと想像力を働かせればどれほど追い込まれるかわかるだろう。

 

「破壊的カルト集団」と呼ばれる類のものは、このような存在をいつも探している。こうしたカルトが「破壊的」といわれるのは、テロを起こすからではなく、対象の社会的関係と生活を徹底的に破壊し、自分ら以外には何者にも頼れないようにするからだ。カルトにとって、孤立無援の母親は全く都合がいい。カルトは彼女に近づき、彼女を助けてくれなかった他の誰でもなく自分たちこそ力になると信じ込ませ、あるときこう語りかける。欲しいものを手に入れられないのは、あなたのものではなく神のものだから。欲を捨て去ることこそが幸福への道。我々ならあなたの財産を布教を通じた人助けのために使えると。

 
そんなカルトにとって、フェミニストは邪魔に違いない。産後極めて過酷な状況に陥った母親に「『母は強し』だろ、強くなれ」などという人たちに対抗して、その「母性」概念を「神話」として扱い、それがいかに抑圧的・搾取的に機能してきたかを説くのだから。カルトにとっては共産党員も邪魔に違いない。DVから逃げて貧困に陥ったシングルマザーに議員が同行して生活保護につなぐなど、さまざまなサポートを行ってきたのだから。「母性」神話の解体と社会的包摂こそが、彼女を孤立させて搾取しようとするカルトにとって妨げとなるのだ。

 
カルトから彼女を守るにはどうすればいいのか? 私たちは彼女を孤立させてはならない。彼女に手を差し伸べなければならない。彼女を孤立から必死ですくいだそうと奮闘する人びとの手を、カルトに邪魔させてはならない。